WORKS

イチトニ

Oosaka. 10.2024

大阪市城東区の旧街道沿い、寝屋川の北側に位置する密集市街地に建つ、在宅ワークを主とするクライアントのための住宅である。よって、住居兼ワークスペースという現代的ニーズに応える建築が求められた。敷地は、前面道路が狭く、隣家の越境も多い長屋的文脈を含む住宅地に位置し、周囲に十分な開放空間を望めない環境にある。そこで、積極的に「環境の創出」を建築の役割と捉え、限られたスペースの中に豊かな居住空間を獲得することを目指した。 建物は敷地間口の約1/3を水回りなどの設備・収納・寝室などの機能スペースに集約した「機能の棟」とし、残りの2/3を中庭と家具によって構成される「環境の空間」とした。 まず、南側の中庭は、準防火地域における設計上の制約に対し、視線と延焼を遮る塀と、浮遊する垂れ壁を水平方向にずらしながら配置することで、開口部に防火設備を設けずとも通風・採光・視線制御が可能な構成としている。これにより、開口部には引込み戸を採用することで、外部と内部の一体利用を可能とし、柔らかで快適性を向上させた環境を実現した。また、空間構成において家具スケールによる居場所の構築を意図している。階段、本棚、ダイニング、デスクなど、機能をもつ家具を建築的スケールと家具スケールを横断することで、単なる機能ではなく「場所」としての意味を帯びた空間の連続性と多層性を生み出している。例えば、西側に設けた本棚は、基礎スラブと緊結された側板に、躯体と一体化した背板を組み合わせることで構造体の一部として機能させ、そこから2階の床合板を跳ね出すことで、梁を用いない、棚板のような薄く軽やかな床を実現した。家具の作り方を構造的なスケールで考えることで、生み出された合理性が、空間の連続性に繋がった本棚通路となった。また、1階と2階を繋ぐ階段は、単なる移動経路ではなく、立体的な居場所としての役割を担うよう家具のように積み上げる構成とした。登り切った先には、視線が都市の空へと抜けるワークスペースを配置し、内へこもるのではなく、街と緩やかにつながる職住一体空間とした。「機能の棟」から一歩踏み出せば、そこには建築が創出した“環境”が広がっている。人が集い、働き、寛ぐ。新たなオフィスのような住まいのかたちが、多層的な居場所を創出し、暮らしと仕事が自然に交差する都市型住宅を作った。

設計
建築設計事務所SAI工房 / 斉藤智士
構造
IN-STRUCT / 東郷拓真
施工
株式会社池正
撮影
山内 紀人
設計期間
2023年7月〜2024年3月
施工期間
2024年3月〜2024年10月
延床面積
78.62㎡